クライミングのためのダイエット。その3/ダイエットは食事が8割

体重を減らすための理屈は簡単

体重を減らすための理屈は、きわめて簡単である。

摂取カロリー < 消費カロリー

これだけだ。
摂取カロリーが消費カロリーより少なければ、体重は減っていく。これはエネルギー保存の法則すなわち物理法則であり、絶対である。

そして、人間が上の式を成り立たせるためには、2つの方法がある。

「摂取カロリーを減らす」
「消費カロリーを増やす」

のどちらかだ。これは言い換えると、

「食事」からアプローチをするか
「運動」からアプローチをするか

のどちらかということになる。

摂取カロリー < 消費カロリーの差分が同じであれば、どちらのアプローチを取っても、だいたい同じ結果になる。しかし、実際のダイエットの運用では、食事からのアプローチを中心に考える方が、ずっと成功しやすい。

摂取カロリー、すなわち食事の量と質を見直すのは、慣れないと面倒だし、とくに外食中心の人にとっては、やりにくい面もある。そこで「食べても、その分消費すればいいんでしょ?」と、食事をほとんど変えずに、運動によってダイエットをしようとする人がたまにいる。しかし、それはだいたい失敗する。

ダイエットは食事が8割

一般的には、ダイエットに与える影響は「食事が8~9割、運動は1~2割程度」だと言われる。つまり、食事が圧倒的に重要だということだ。
もちろん、これも人によって異なるとは思うが、自分の経験としては、運動の影響は2割くらいかな、と感じる。「ダイエットは食事が8割」だ。

ダイエットは食事からのアプローチを中心にするべきで、運動は、それを補なうオプション程度の感覚でいる方がいい。それは、有酸素運動によるカロリー消費や、筋トレによる基礎代謝増加といった効果は、想像しているより少ないことと、食事によるカロリー摂取は、想像しているよりだいぶ多いことの両方の理由がある。

有酸素運動からアプローチすると…

仮に、いま毎日「摂取カロリー=消費カロリー」になっていると仮定する。(体重の増減はない)。
ここから減量するため、体脂肪を直接燃焼(消費)させる有酸素運動からのアプローチを考えてみよう。

体重60kgの自分が、10km(約60分)走ったとき、消費カロリーは600kcalほどだろう。脂肪を1g減らすには、7kcalのエネルギー消費が必要だと言われるので、これで、約86gの脂肪が減る計算である。
10日で約860g、1か月で約2.6kg減る計算になる。

しかし、毎日10km(約1時間)のランニングをするのは、体力的にかなりきついように思える。
では、ウォーキングならどうか。ウォーキングで600kcalを消費するには、2時間半くらい歩かなければならない。体力的にはランニングよりは楽かもしれないが(それでもけっこうしんどそうだが)、仕事をしながら、毎日2時間半もウォーキングの時間を取るのは、かなり非現実的であろう。

つまり、有酸素運動をすれば脂肪は燃焼されるが、その量は意外と少ない。そのため、大きな効果を得るためには長時間の運動をしなければならず、時間的、体力的に厳しいのだ。

食事からアプローチすると…

一方、食事からのアプローチではどうか?

たとえば、今まで平均2,500kcal採っていた食事を、平均1,900kcalに減らせば、マイナス600ckalである。上記の運動と同じ程度の減量効果だ。

1食あたり、200kcal減らすのだが、これはそれほど大変ではない。ご飯を半分に減らして、カロリーが高い揚げ物などのおかずを減らせばいい。今まで間食をたくさんしていた人なら、間食をやめるだけでも、これくらい減るかもしれない。

毎日3食(以上)とっている食事の増減の方が、ダイエットに大きな影響を与えるのは当然のこと。そして、同じように毎日マイナス600kcalを実現するのに、ふつうは食事からアプローチする方がずっと簡単のように思える。

それを確認するために、食事(摂取カロリー)を毎日記録して「見える化」することを、強くお勧めする。

毎日食事の内容を記録していると、自分が想像している以上にカロリーを摂取していることに、驚くはずだ。なんとなく漠然と思っていたことと、だいぶ違っているだろう。

「筋トレで基礎代謝を上げて太りにくい身体に…」のウソ

運動については、有酸素運動ではなくて、筋トレで筋肉をつけて、基礎代謝を上げるというアプローチもある。

「筋肉が増えれば基礎代謝が上がって、体重が減りやすくなる(太りにくくなる)」というのは、ダイエット情報を見るとどこでも書いている。

これは、ウソではない。しかし、筋肉が「1kg」増えたときの、1日あたりの基礎代謝量がどれだけ増加するかというと、約「13kcal」だという。脂肪燃焼で言えば、わずか2g程度で、ほとんど誤差の範囲だ。

一方、(脂肪は増やさず)筋肉を1kg増やすというのは、かなり大変である。年齢、性別によっても異なるが、週に2回ハードな筋トレをやって、栄養管理もしっかりやって、3か月~半年くらいかかるのではないだろうか?

そうして得られる基礎代謝の増加が、たったの13kcal……。つまり「筋肉が増えれば基礎代謝が上がって、体重が減りやすくなる」は、真っ赤なウソ、とまでは言えないが、かなり「針小棒大」なのである。

クライマーには、クライミング後の有酸素運動がもっとも効率がいい

ただし、筋トレ中はその運動分、カロリーを消費する。また、筋トレ後は成長ホルモンの増加によって、脂肪が燃焼されやすい状態がしばらく続くとされている(筋トレの後に有酸素運動をすると効果的)。

そのような効果があるから、基礎代謝の増加だけが、筋トレのダイエット効果ではない。
また、ダイエット中は、基本的に栄養が足りていない状態なので、そのままでは筋肉が減りやすくなる。筋肉をなるべく落とさないためにも、筋トレはした方がよい。だが、筋トレ単体でのダイエット効果への過剰な期待は禁物である。

クライマーの場合は、(登り方にもよるが)すでにクライミングという筋肉に大きな負荷をかける運動をしており、クライミングに必要な筋肉はついている。
筋トレをするとしたら、クライミングではあまり使わない筋肉部位=クライミングで主に使う筋肉の拮抗筋(たとえば、広背筋に対する大胸筋や上腕二頭筋に対する上腕三頭筋)を補強的に鍛えたり、下半身やいわゆる体幹の筋トレを中心にした方がいい。

「筋トレで余計な筋肉がつくと重くなる」という人もいるが、ダイエットをしながら筋肉が増えることはほとんどないので、そんな心配は無用だ。

結論としては最初に述べたように、クライマーが減量するには、食事からのアプローチを中心としながら、クライミング後、あるいは補強的な筋トレ後に有酸素運動を採り入れることが、効率的な方法となる。

たんぱく質等の栄養摂取は必須

なお、クライミング、筋トレをする場合、サプリ等で適宜必要な栄養を補いたい。
サプリメントについてはここではくわしく触れないが、筋トレ前・中のBCAA、筋トレ直後の糖質、グルタミン、プロテインなどの摂取は必須である。特に重要なのは枯渇したグリコーゲンを補給するための糖質で、これは筋トレ「直後」というところがポイントとなる。
ちなみに、BCAAやプロテインなどのサプリは、海外製が安い。個人輸入するのが一番だが、アマゾンなどで並行輸入品が売っていれば、そこで買うのも手軽で良い。

サプリのいいところは、必要な栄養素だけが採れるところ。たとえば、たんぱく質を採りたい場合、肉を食べると、鳥のささみなどを除いて、まず大量の脂肪も一緒に採ってしまう。しかし、プロテインパウダーなら、(ほぼ)純粋にたんぱく質だけを採ることができる点が、大きなメリットだ。

自分の経験上、激しいトレーニングをしている時期に糖質が不足すると、激しい倦怠感が続いたり、風邪を引きやすくなったりなど、体調を崩すことが多くなるので注意したい。