NHK「アスリートの魂」、野口啓代選手の回の感想

ドキュメンタリー番組としての面白さは、今ひとつ

NHKで放映された「アスリートの魂」、野口啓代選手の回を観た。

アスリートの魂「4年後も女王のままで スポーツクライミング 野口啓代」
http://www4.nhk.or.jp/tamashii/x/2016-11-13/21/24288/1281181/

クライマーの皆さんは、観た人も多いだろう。

この番組を観るのが初めてなので、いつもこういう感じなのかどうかはわからないが、正直言って、人物にスポットを当てたドキュメンタリー番組としての面白さは、あまり感じなかった。

たぶん、制作サイドとしてはこれまで「女王」(ぼくはこの言葉は嫌いだが)だった野口選手が、はっきり言って、選手としてのピークを過ぎつつある今、加齢や最近の競技ボルダリングの質の変化、そしてより若くてこれからピークを迎える選手の登場といったこと戦いつつ、「4年後」に挑む苦悩やチャレンジ、といったあたりを見せたかったのではないかと思う。番組タイトルからも、それはうかがえる。

正直、その意図は、うまく表現できてなかったと感じる。全体的に、とても表面的というか、あっさりした感じで、苦悩もチャレンジもはっきり伝わってこない。ドキュメンタリー番組として評価するなら、100点満点で50点くらいだろうか。

なぜ面白くならなかったのかはわからないが

ドキュメンタリーが面白くなるのは、対象となるヒトやモノ自体に深い魅力があり、かつ、それを作り手がうまく構成、演出して表現できたときだろう。なかなか難しい。

今回、この番組に自分があまり魅力を感じなかったのは、制作サイド作り方のせいなのか、それとも登場している選手自身にさほど深い魅力がないからなのかは、わからない。どちらかかもしれないし、両方かもしれない。

誤解を招かないように付言するが、別に野口選手をけなしているつもりはない。

彼女自身がまさに番組の中で述べているように、プロの選手は結果がすべてだ。選手として強いということと、ドキュメンタリー映像として見た時に魅力を感じるような人間的な(テレビ的な、と言ってもいい)魅力や深さのようなものを持っているかどうかは、まったく別のことである。人間的な魅力など、強さとは関係ない。

それでもやはりクライミングシーンは食い入るように観てしまう

ドキュメンタリー番組としては、私の評価は低いが、クライミングのシーンになると、やっぱり食い入るように見てしまう。世界選手権など大会のシーンでは、画面に向かって「うまい」とか「惜しい」と声に出してしまうこともあったし、何度かリプレイして観たシーンもあった。

また、自分もランジが苦手なので、野口選手がランジをどうしてもうまくできないといったシーンには、そうなんだよなあ、後ろに飛んじゃうんだよなあ…と、強い共感を抱いた。もちろん、「できない」のレベルが、まったく違う次元ではあるが。

一般人に向けた解説は、おおむねよかった

クライミングのことを知らない一般人に対して、課題の難しさとか、どこがムーブのポイントなのかを、わかりやすく伝えようとする姿勢は、これまでに見たクライミングを取り上げた番組の中では、かなり良心的だったと思う。どこまで伝わっているものなのかは、わからないが。

逆に、これはちょっと?と思う部分もあった。保持力=握力みたいな解説をしているところがあって、「それは違うだろう」と。クライミングを知らない人から見たら、「結局、握力が強い人が勝つの?」と思われかねない。

あと、「ジャンプ」というのはやめてほしかった。ランジという専門用語があるのだから、解説を入れてちゃんと専門用語を使うべきだろう。ホールドを「突起」とは言っていないのだし。

そういった面白さや違和感はクライマー目線のニッチな部分であって、たぶん一般の人とはだいぶ感じ方が違うであろうことはわかっているが。

おおむね、クライミング・ボルダリングをていねいに伝えようとしていることは感じたが、マイナースポーツゆえに、決められた時間内で「競技そのもの」の説明にある程度の時間を割かざるをえないのは仕方ない。しかしそれが仇となり、冒頭述べたような、人物描写の深みに欠けるになった要因なったとしたら、残念である。

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