図がちょっと雑で、結局2冊目の地位に甘んじるか
『新版 関東周辺の岩場』について、前回紹介したときはけっこうほめたのだけど、その後でよく見てみると欠点もあるようだ。
一番問題なのは、ルート図が全体的に見づらく、かつ、けっこう不正確であること。今回取り上げる北川の図でも、ぱっと見、「グリーン・オニオン」と「北落師門」の抜け口が同じような感じに見える。しかし、両者の抜け口は全然違うラインだ。
それから、ルートが著者の判断で間引かれていること。これ自体は、欠点ではなく、著者の考え方に従った「特徴」という方が正しいのだろう。だが、実際に岩場にこのトポを持って行ったときに、ボルトはあるのにルート図に書かれていないということが、しばしば生じることになる。初めてその岩場に行ったクライマーは混乱してしまうだろう。ルートを間引くのはよいとしても、それなら読者の混乱を招かないようなひと工夫がほしい。
結局、『100岩場』も一緒に持っていかなければならないことになる。それなら1冊だけ買うなら『100岩場』ということになる。
というわけで、前回は、「これから買うなら『日本100岩場』よりは、こちらを優先して買った方がいい」と書いたが、それは取り消す。やっぱり『100岩場』を優先して購入し、2冊目として、あわせてこちらも買った方がいいようだ。
↑図をもう少ししっかり描いてくれれば……
グレーディングの議論は、どんどんした方がいい
前回も書いたが、クライミングのグレードというものは、陸上競技のタイムや野球の打率のように、客観的なものではなく、クライミングコミュニティの中でのコミュニケーションによって定まっていくものだ。だから、グレードに関する意見を出したり、議論をすることは、どんどんした方がいい。
そして本来、そういったオピニオンを提起したり、議論の場を提供することは、専門メディアの役割のはずだ。しかし、現在の『Rock & Snow』誌には、そのようなクライミングコミュニティの発展のための役割を積極的に果たそうという姿勢は、ほとんど見られない。
先日も紹介した『新版 関東周辺の岩場』では、『日本100岩場』で示されていたグレードを改定しているルートが多くある。もちろん、これはあくまで著者の「提案」だ。『日本100岩場』に載っているグレードだって、それはだれか(初登者なり、編者なり)の「提案」であり、どれかが一方的に正しいというものではない。
そして、そのような提案が、商業メディア、非商業メディアを問わず多く出され、議論が交わされる中でしか、グレーディングもクライミングスタイルのあり方も、定まっていかない。だから、どんどん提案を出しあい、議論をした方がいい。
そういうわけで、私も『新版 関東周辺の岩場』で提示されたグレーディングについて、自分が登ったことのあるルートで特に記憶に残っているものについて、感想を述べたい。
長くなるので、今回は「北川の岩場」と「河又」。
「北川」のグレーディング改定雑感
いきなりグレーディングの話からずれるが、岩場紹介の文章において岩場利用上のマナーについて触れているのに、この岩場のルールである「火気厳禁」(コンロも含めて)と、トイレ利用(大の場合、元小学校のトイレを使うこと)について書かれていないのは、どういうことか? 著者自身がこれらのマナーについて意識していないのではないかと疑ってしまう。
http://freeclimb.jp/news/news2008_4.htm#kitagawa
また、「北落師門」など、多くのルートで、終了点はリップのラッペルチェーンではなく、リップを乗り越して数メートル登った上部にあることについて、一言も触れていないのも問題だろう。この点は、知らない人は勘違いしやすいところなので、このトポだけを持って初めてこの岩場に来たクライマーは、勘違いしてしまう可能性が高い。
こういった情報はネットで調べれいればわかるのだけど、それでもトポに「公式情報」として載せておく意味は大きい。ページが増えて定価が上がるにしても、入れるべき重要情報はしっかり書くべきだろう。
では、改定されたルートを見てみよう。
秋葉大権現:12b → 12c
自分は、このルートは登れたが、錦ヶ浦(12c)は、登れなかった(リップの「直登乗り越し」のムーブができなかった)。なので、やっぱり錦ヶ浦が12cなら、このルートは12cは無いのでは、と思う。ただ、他の12cは1本も登っていないので、はっきりとはわからない。ちなみに、1ピン目をプリクリする人が多いけど、プリクリなしでも届く(自分の身長は164センチ)。
北落師門:12a → 11d
これは妥当であろう。自分が何本か登っている、『100岩場』で12aとグレーディングされているルートの中でも、このルートは1レベル以上易しかった。
ミンボー:12a → 11d
北落師門と合わせたということであろうが、こちらは北落師門よりちょっとだけ難しい気がした。それでも北落と1グレードの違いはないだろうと考えるなら、まず妥当か。
UV:12a → 12b
「北落師門」「ミンボー」よりは明らかに難しいので、同じグレードなのはおかしかった。だが2グレードの違いがあるかと聞かれると、うーん…? このルート、「UV」パートの後、ちょっと右周りで、右手アンダーガバから左手ガバをフリで取る人がほとんどだと思う。でも、『100岩場』でも『関東周辺』でも、まっすぐ感じでライン取りが書いてあるのが気になる。オリジナルは、右に回らずまっすぐ登るのかもしれない。その場合は、多くの人が登っている「右回り」より、ちょっと難しくなるはず。そして、まっすぐ登ったら、やっぱり12bだろう(もっと難しいかも)。自分が登った右回りの場合どうだろう? 12bまではないような気がする。
ルンルン・ヒロシ君:除外
このルートは、なんと外されてしまった。たぶん、錦ヶ浦の派生だから、ということだろうが、これはちょっと理解できない。岩場の開拓当時から存在する、由緒正しきルートなのに。あまり登られていない「グリーン・オニオン」を外すなら、まだ理解できるが。
「河又」のグレーディング改定雑感
忍吉98:5.9 → 10b
初心者が「5.9なら」と思ってとりつくと危険だったルート。でも、10bはやりすぎだろう。10aでいいのでは。なぜなら、左の「忍吉」の方が絶対難しいから。「忍吉98」10a、「忍吉」10bが適切ではないかと思う。「忍吉98」は、スタートの地面に石を積み上げたりしてはダメですよ。
ついでに、「忍吉」はタコの頭みたいな岩に乗りあがって、その上にあるボルト(下からは見えない)にクリップだけど、このルート図ではそれがわかりにくくて、途中から「忍吉98」に合流しちゃいそう。実際は、終了点は共通だけど、途中では合流はしない。
ギザギザ・ハート:10c → 10d
まあ妥当かな。終了点は、昔はもっと上だったらしいく、リボルトされて下がった分だけ少し簡単になっているはずだが、それは勘案されてるのか?(河又では、「大五郎」など、そういうルートは他にもある)
小作人:11b → 11c
グレーディングについて、OSを基準にするのか、RPを基準にするのか、また、マスターを基準にするのか否か、ということが疑問になる。このルート、OSでマスターだったら、かなり難しいと思う。ヌンチャクがかかっている状態でのRPを基準にして、11cで妥当では。でも、登ったのはだいぶ前なので、今登ったらどう感じるかな?
地主:11b → 11c
これも、OSではホールドがわかりにくく難しいタイプのルート。でも、RP時は「小作人」よりやさしく感じた。11bc?
イヤーイヤ:11a→11ab
半グレードアップする意味はよくわからない。11aでもいい気がする。
ミヤザキミドリ:10a → 10b
妥当。『100岩場』の初版では5.9とされていたが、それが10aに改定されてもまだ辛い感じだった。自分も久しぶりに触ると全力パワーを出さないと登れない(そしてテンションしたりして(恥))。
大五郎:11a → 11b
大棚から1段上がった中間部あたり、少し左の方を回って、斜めのクラックの方から登る人がたまにいるけど、そこはまっすぐコルネ沿いに登らないとだめだろう。真ん中を正しく登れば、11bで妥当か。左に逃げすぎたら甘めの11aかな。棚の最初のヌンチャクは、環付きビナにした方がいいよ(万一ロープが外れたら致命的)。
ドラゴン・ストリート11d → 12a
これはちょっとオーバーでは? もとの11dでよかったと思う。11dというグレードは渋くてよい。ただ、モスグレイハンドとの整合性をとると、12aにしなければならないということか。なお、ルートの内容はとてもいい。
泣かないで愛ちゃん:10c → 10d
妥当。「これが10cじゃ、愛ちゃんも泣いちゃうよ」と言われていた。(ちなみに、自分はまだRPしていないはず)。
ムーンビーム:5.9 → 10a
妥当。鏡のようにつるつるのフットホールドで、以前のグレーディングでは危険ですらあった(5.9がギリギリの初心者が安全に登れるルートではない)。
モスグレイハンド:11c → 11d
パワー系核心部の1手ものに近いので、よくわからない。わざわざ変えることはない気がする。ちょっと右にある「そういちろう」(11c)と比べて、1グレード難しいだろうか?
ディレッティシマ・ドラゴン:11d → 12a
たしかに難しかった。だから12aなのかも。でも、11dという渋いグレードだからよかった、ような気もする。
藤娘:10c → 10d
妥当。10cだからアップで、と思って登るとひどい目にあう。
さて、みなさんはどう思われるだろうか?
他の岩場については、いずれまた。