『バリ山行』(松永K三蔵、講談社)
図書館でタイトルを見て、バリ島に関係した話なのだと思った。まさか「あのバリ」だとは思わなかったのだ。しかし、手に取ってパラパラめくると、実際にはあのバリの話らしかった。それで、読んでみた。
「あのバリ」とは、すなわちバリエーションルートのバリだ。バリエーションルートとは、登山地図に載っている一般登山道ではない登山ルートのことである。道が整備されていない尾根を登ることもあれば、沢を詰めたり、藪を漕いだり、ロッククライミングをしたり、懸垂下降することもある。そういうバリエーションルートを進む登山を、この作中では「バリ山行」と称している(なお、「バリ」という言い方はよく聞くが、「バリ山行」と言い方は、私は聞いたことがない)。
私も以前は、そういうバリ的な山遊びが好きで、たまに沢登りなどにも興じていた。なので、本書で描写されているバリ山行のディティールのひとつひとつ、――たとえば、ぐずぐずの斜面を高巻く怖さや、藪漕ぎのしんどさなど――が、いちいちよくわかるし、懐かしい感じがする。
そういう意味では興味深く読めたが、この作品のメインテーマはバリ山行の魅力を伝えることではないだろう。人生や仕事にはバリ山行みたいなところがあってもいいんじゃない、という話だ。バリ山行の描写は興味深かったが、話の本筋のほうは、私にはさして面白くなかった。もっともそれは、労働から半分以上降りてセミリタイア生活になっている自分にとっての切実さがないからかもしれない。
ちなみに、本作は2024年(第171回)の芥川賞を受賞している。正直に言えば、芥川賞を取るほどの作品だろうかと感じる。だが、私はあまり文学作品を読まないので、たぶん読みが足りないのだろう。
バリに興味のある人は、とりあえず読んでみてもいいかも。


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